15年越しにたどり着いた、家族5人の木の家

福島県北部 田中ファミリー(仮名)

全面を焼杉で包んだ、切妻屋根の住まい。

玄関を入ると、柱や梁の見える真壁の空間が広がり、南側の大きな窓から光が差し込みます。吹き抜けと階段を中心に家族の気配がゆるやかにつながり、2階には、ご夫婦と3人のお子さん、それぞれの居場所がつくられています。

田中様(仮名)が家づくりを考え始めたのは、今から15年ほど前のことでした。東日本大震災や仕事の多忙、土地価格の上昇などを経て、一度は立ち止まった家づくり。それが2024年、「きのえ」の見学会をきっかけに再び動き出しました。

長い時間を経てたどり着いた木の家で、暮らしはどのように変わったのでしょうか。お引き渡しから約1年。田中様に、家づくりの歩みと今の住まい心地を伺いました。 

子どもたちと、広い家で過ごしたい

田中様が家を建てようと思った最初のきっかけは、お子さんが生まれたことでした。

「子どもが生まれて、広い家で子育てをしたいと思ったんです。当時は、家の中でも子どもが遊べるような暮らしを思い描いていました」

当時暮らしていたアパートは、立地こそ便利だったものの、夏は暑く、冬は寒い住環境でした。とくに北側の部屋は風が通りにくく、結露やカビにも悩まされていたといいます。窓の結露を拭き取り、カビが生えないように掃除をする。ときには、カビのために荷物を処分せざるを得ないこともありました。

家づくりを考え始めた矢先、2011年に東日本大震災が発生。震災の復旧に携わっていたご主人の仕事が多忙となり、土地の価格も上昇したことから、計画をいったん保留とされました。

その後、徐々に仕事が落ち着き、娘さんたちも学校での生活に慣れていく中で、計画を再始動。

住宅会社や住まいの性能、施工などについて学びはじめ、2017年には坂元植林の家を見学。最初に訪れたモデルハウスで感じたのは、数値だけでは表しにくい「空気感のよさ」だったそうです。


「きのえ」を見て、家づくりが再び動き出した

大きな転機となったのは、2024年3月。名取市で開かれた「きのえ」の完成見学会でした。

それまで田中様は、45坪ほどの大きな住まいも思い描いていました。けれど実際の「きのえ」を見たことで、家族で暮らすために本当に必要な広さと、手の届く規模が具体的に見えてきたといいます。

「自然素材が基本仕様に多く、地域の木が使われていること。それに、真壁の木の家らしさと住まいの性能を、この規模と価格で実現できることが魅力でした。この家は『きのえ』だからこそ叶えられたと思っています」

土地に合わせて、「きのえ」の基本となる架構のルールを3.5間×4.5間へ調整できたことも、依頼を決める大きな理由になりました。

家づくりでは、住宅性能についてご自身で学んできた知識も生かしながら、たくさんの希望を相談された田中様。打合せで印象に残っているのは、要望に対するスタッフの応え方でした。

「できることと難しいことを整理しながら、『こうすればできます』という提案がすぐに出てくる。自分のこだわりが強く、迷惑をかけたことも多かったと思いますが、いつも感心していました」

「まちのえ」で打合せをする機会も多く、素材や納まり、住まいの道具を実物で確かめられたことも助けになりました。ハニカムスクリーンは、「まちのえ」で使われているものを見て、そのまま採用したそうです。

家族5人、それぞれの居場所をつくる

住まいは延床約28.8坪。2階には、4.5帖ほどの個室を5室設けました。

家づくりを考え始めたころは、まだ幼かった3人のお子さん。長い時間のなかで家族の暮らし方も変わり、計画を再開したころには、三姉妹それぞれのプライバシーを大切にすることが必要になっていました。

個室はコンパクトにしながら、一人ひとりが自分の時間を過ごせるように。ロフトのある部屋では、扉を閉めなくても、上に登ることで少し気持ちを切り替えられます。漫画や本を読んだり、ゆっくり横になったりと、それぞれの居場所が生まれています。

一方、家族が集まる場所は、吹き抜けを通して上下階がつながるつくりです。吹き抜けに設けた造作机は、子どもたちが宿題をするお気に入りの場所。ダイニングから吹き抜けを見上げる眺めは、ご主人が家の中で最も好きな景色のひとつです。

夏には、吹き抜けの大きなFIX窓から地域の花火が見えるそうです。家族で同じ景色を眺める時間も、この家で始まった楽しみになりました。

外の気温が、気にならなくなった

以前のアパートから新しい家へ移り、最初に感じたのは、室内環境の大きな違いでした。

「外が暑いのか寒いのか、家の中にいると想像できなくなりました。子どもたちは、着ていく服を決めるために一度外へ出るようになって。前の家では考えられなかったことです」

冬は1階のエアコン、夏は2階のエアコンを中心に使い、吹き抜けを通して家全体の温度を整えています。冬は寝る前に暖房を止めても、外気温が0度を下回らない日には、朝まで室温が18度を下回ることはほとんどなかったといいます。その後は、エアコンを24時間連続して動かしたほうが電気代を抑えられることがわかり、無理に止めずに使うようになりました。

田中様がとくに関心を持って見ているのが、室内の湿度です。

夏は2階のエアコンによる冷房と除湿を続け、冬は吹き抜けに洗濯物を干すことで、相対湿度40〜45%、絶対湿度9〜10g/㎥ほどを保てているそうです。加湿器も用意しましたが、ほとんど使わずに過ごせました。

「高性能住宅は湿度の管理が難しいと聞くこともありますが、この家は自分たちにとって、ちょうどよくコントロールできる性能になったと感じています。無垢の木や珪藻土系の壁のおかげか、冬も乾燥している感じがあまりありません」

以前は毎日のように気にしていた結露がなくなり、窓まわりの掃除やカビへの心配も大きく減りました。厚手の布団を手放し、家の中では薄着で、季節を問わず裸足で過ごす。住まいの性能は、日々の小さな負担を減らし、家で過ごす時間そのものを変えていました。

「何もしないで、家にいる」休日

新しい家に暮らし始めてから、休日に何もせず家で過ごすことが増えたといいます。

以前の住まいでは、家の中で十分に遊ぶことが難しく、休みの日には外へ出ることが多かった田中様ご家族。今は、部活動などそれぞれの予定がありながらも、家でゆっくり過ごす時間が生まれました。

お子さんたちは友達を気兼ねなく招き、自分の部屋へ案内したり、1階で一緒にゲームをしたりしています。それぞれの個室がありながら、家族が同じ家の中で思い思いに過ごせる。家族の距離を無理に近づけるのではなく、一人でいたい時間も、誰かと過ごしたい時間も受け止めてくれる住まいです。

家事の負担も変わりました。広くなった作業台と高さ90cmのキッチン、食器洗い乾燥機、手入れのしやすい浴室。洗濯機から物干し場までの距離はほとんどなく、ガス衣類乾燥機も使えます。結露やカビの掃除が減ったことも含め、「家事の作業量は圧倒的に減りました」と振り返ります。

休日の朝、ダイニングテーブルに座り、窓の外を眺めながら飲むコーヒーも、ご主人の楽しみのひとつです。

「外は寒いんだろうな、と思いながら飲むコーヒーは格別です」

暮らしながら、自分の手で住まいを育てる

完成した家に、ご自身の手を加えていくことも、田中様の楽しみになっています。

工事中には、無理をお願いして、室内の押縁の塗装をご自身で担当しました。お引き渡し後は、休日や夜の時間を使いながら、IKEAの収納システムを組み立て、現場で余った床材からパントリーの棚や小物入れ、ゴミ箱、学習机などを製作。ガス衣類乾燥機「乾太くん」が洗濯機の上部に設置しているため、その段差を補う踏み台もつくりました。

既製品の内装ではなく、無垢の木や真壁の柱が見える空間だからこそ、材料を合わせやすく、自分で手を加えやすいといいます。

「本物の素材は、やっぱりかっこいいです。傷や色の変化も、劣化ではなく変化として受け入れられる。既製品では、なかなかこの感覚にはなれないと思います」

床の色が少しずつ深まり、木の収縮による音も落ち着いてきました。完成したときが頂点なのではなく、手を加えながら、家族の暮らしに合う住まいへ。田中様邸は、日々少しずつ育っています。

丁寧な仕事が、住まいへの信頼になった

以前のアパートが建築現場のすぐ近くだったことから、工事中は何度も現場へ足を運んだ田中様。家が少しずつ形になっていく様子を見ることが、純粋に楽しかったそうです。

なかでも印象に残っているのが、棟梁を務めた高橋大工さんの仕事ぶりでした。

「気になるところを、細かな部分まできちんと納めてくれました。仕事がとても丁寧で、現場を見るたびに感心していました」

住まいの性能は、図面や数値だけでつくられるものではありません。一つひとつの材料を確かめ、細部を丁寧に納めていく職人の手仕事があって、初めて日々の心地よさにつながります。

自分たちで選んだ素材が、信頼できる職人の手で住まいになっていく。その過程を間近で見られたことも、完成した家への愛着を深めています。

時間とともに、変化を受け止める家へ

家づくりを考え始めてから、完成までおよそ15年。長い時間のなかで、子どもたちは成長し、思い描く暮らしも変わっていきました。

これからは、庭でバーベキューを楽しんだり、あるいは家具や居場所をすこしずつ整えていきたいと話します。いつか子どもたちが家を離れたら、自分の部屋をもう一度つくり替え、お気に入りの椅子に座ってゆっくり過ごすことも、ご主人が思い描いている楽しみです。

それでも、家族が帰ってこられる場所であることは変わりません。

「子どもたちが成長すれば、暮らし方もいろいろ変わっていくと思います。何かあったときには、みんなが集まれる心地よい場所であり続けるように、時間を重ねていきたいです」

家づくりを考えている方、とくに若い世代へ、田中様が伝えたいことがあります。

「今は建築価格が高くなり、家を建てること自体が難しくなっていると思います。だからこそ、入居したときが一番いい状態なのではなく、時間がたっても、劣化ではなく変化として受け止められる家を選んでほしいです。坂元植林の家には、そういう家づくりができると思います」

15年の間には、計画を止めなければならない時期もありました。けれど、その時間があったからこそ、自分たちに必要な広さ、性能、素材、そして一緒に家をつくる人を、納得して選ぶことができたのかもしれません。

全面焼杉の外壁も、真壁の柱や梁も、無垢の床も、これから少しずつ表情を変えていきます。その変化を受け止めながら、家族5人の時間が重なっていく。田中様邸の木の暮らしは、ようやく始まったばかりです。

田中様邸 家づくりの歩み

時期 できごと
2011年以前 お子さんの誕生をきっかけに家づくりを検討
2011年 東日本大震災後の仕事の多忙化や土地価格の上昇により、計画をいったん保留
2017年 坂元植林の家を見学
2024年3月 名取市で「きのえ」の完成見学会に参加。家づくりが再び動き出す
2024年11月 工事請負契約
2025年7月 お引き渡し・お引っ越し

 

※室温・湿度・電気代などはお客様による実測・実感であり、住宅性能を一律に保証する数値ではございません。

書いた人

坂元植林の家 編集部

坂元植林の家 編集部

林業会社を母体とし、森林経営から木材加工、木造住宅の設計施工まで一貫して取り組む工務店として、森林・林業・木造建築・地域の暮らしに関する実務に基づいた情報を発信しています。