森を歩き、木を見て、土地を探して。暮らしに根ざす家ができるまで

柴田町 川勝ファミリー

さまざまな住宅会社を見比べ家づくりを考えていた川勝様ご夫妻。けれど、流行りのデザインや整いすぎた住まいには、どこかしっくりこない感覚があったそうです。そんなときに目に留まった、坂元植林の家の建築中だった「さとのえ」に出会い、「建てたいのはこれだ」という強い感覚が芽生えました。

坂元の森を歩き、モデルハウスに泊まり、製材所や手刻みの現場を見学しながら進んだ住まいづくり。完成した住まいには、キッチンの前に敷瓦の内土間が広がり、木の香りと光、古道具や民芸品が自然になじみます。

時間の積み重ねを受け止める暮らしの場がどのように生まれていったのか、川勝様のインタビューを通して振り返っていきたいと思います。

「流行りの家」が、しっくりこなかった

川勝様ご夫妻が家づくりを考え始めたのは、コロナ禍のころでした。

デザイン系の設計事務所や大手ハウスメーカー、各社のモデルハウス、Instagramなどを見ながら、自分たちらしい住まいを探していたといいます。

けれど、いろいろな家を見ても、どこかしっくりこない。

整った意匠や新しさには惹かれながらも、それだけでは、自分たちの暮らしの景色までは想像できなかったそうです。

そんななかで出会ったのが、坂元植林の家の住まいでした。

「まちのえ」や「きのえ」、そして建築中だった「さとのえ」を見ていくなかで、特に「さとのえ」には強く惹かれたといいます。

「建てたいのは、これだと思いました」

その直感が、川勝様ご夫妻の家づくりの出発点になりました。

森を歩き、住まいを考える

川勝様ご夫妻が実際に坂元植林の家を訪れたのは、まだ「さとのえ」が建築中だったころでした。

写真や資料で感じていたものを、自分たちの目で確かめてみたい。そんな思いから、建築中のさとのえ、そしてモデルハウスのまちのえをご見学いただきました。

その後、まちのえでの宿泊体験へ。宿泊の前には、坂元の森もご案内しました。家に使われる木が育ってきた場所を実際に歩き、森の空気や地形、木々の表情に触れることは、建物を見る前に、その家がどこから来るのかを知る時間でもありました。

そのときの印象について、川勝様ご夫妻は「落ち着く感覚があった」と振り返ります。
建物の形や素材だけでなく、森の空気や土地の表情まで含めて、自分たちが暮らしたい場所の輪郭が、少しずつ見えてきたのかもしれません。

坂元植林の家が大切にしているのは、単に木を使うことではありません。森から始まり、地域の風土や職人の手仕事を通して、暮らしの場をつくっていくこと。川勝様ご夫妻の家づくりも、その体験を重ねながら少しずつ進んでいきました。

木の背景を知り、暮らす土地を探す。家づくりの背景まで見ていく

まちのえでの宿泊体験の翌日には、製材所も見学していただきました。

丸太が柱や梁、板材へと姿を変えていく場所。木目や節、色味を見ながら、どの材をどこに使うのかを考えていく現場です。

その後も、焼杉をつくる現場の見学や、柴田町内での土地探しを一緒に進めていきました。

川勝様ご夫妻が望んでいたのは、街なかの利便性だけを優先した土地ではありませんでした。里山や田畑に近く、自然の気配が日常に溶け込む場所。そうした環境を求めて、柴田町内外の土地を検討しました。

ウェブで公開されている情報だけを見るのではなく、実際にご夫婦と一台の車で候補地の周辺を巡りました。道の先にどんな景色があるのか。田畑や里山がどのように続いているのか。通りかかった土地を眺めながら、その場所で暮らすことのイメージを、少しずつ共有していきました。

不動産会社はもちろんのこと、地域の区長さんのように、土地の来歴や周辺の事情に通じた方にも相談しながら、土地探しを進めていきました。最終的に決まったのは、サカモトの関係者が所有していた成田地区の土地でした。

土地が決まる前から、森を歩き、地域を見て、木のことを知る。
川勝様ご夫妻の家づくりは、建物だけを考えるのではなく、暮らす場所そのものを探す時間でもありました。

川勝様邸 家づくりの歩み

時期 できごと
2021年秋 住宅雑誌をきっかけに、坂元植林の家へ資料請求
2022年秋 建築中の「さとのえ」と「まちのえ」を見学
2022年秋 「まちのえ」に宿泊体験。宿泊前には坂元の森を散策
2022年秋 製材所を見学
2022年秋 焼杉の製作現場を見学。あわせて柴田町内の土地探しを開始
2023年冬 伐採式を実施
2023年春 成田地区の土地に決定
2023年初夏 伐採木の製材を見学。設計プランの提案
2023年夏 基本プランに合意し、詳細設計へ
2023年冬 土地契約
2024年冬 手刻みの様子を見学
2024年春 工事請負契約、着工
2025年冬 お引渡し・お引っ越し

坂元植林の家の平均的な【出会ってからお引き渡しまでの時間】はおよそ1年~1年半。

一般的には8か月~15か月くらいと言われていますが、川勝様は4年強のお時間となりました。森を歩き、土地を探し、伐採した木が家になるまでを見届けながら、時間をかけて住まいの輪郭をつくっていきました。

伐採式から製材、手刻みへ

2023年1月には、住まいに使う木を伐り出す伐採式を行いました。

自分たちの家に使われる木が、森でどのように育ってきたのか。その木が伐られ、製材され、大工の手で刻まれ、家の一部になっていく。川勝様ご夫妻には、その過程も見ていただきました。

2023年6月には、伐採した木の製材を見学。同じ日に、設計を担当するビオフォルム環境デザイン室から3つのプランが提案されました。

そのなかで選ばれたのが、キッチンの前に敷瓦の内土間を設けた案でした。

川勝様ご夫妻にとって、この内土間のあるプランは、3案のなかでもっとも個性のある提案だったそうです。そして、暮らし始めた今では、その土間こそが住まいのなかでも特に気に入っている場所になっています。

その後、基本プランの合意、詳細設計、土地契約、手刻み見学、工事請負契約を経て、2024年に着工。2025年2月にお引渡しとなりました。

土間がつなぐ、家の内と外

川勝様邸の中心には、キッチンの前に広がる敷瓦の内土間があります。

台所や食卓、くつろぐ場所とひと続きになりながら、庭や周囲の景色へと視線が抜けていく。内と外のあいだにあるこの場所が、日々の暮らしにゆるやかな余白をつくっています。

無垢の床、真壁の柱や梁、障子、敷瓦の土間。
それぞれの素材が主張しすぎず、けれど確かな存在感を保ちながら、日々の暮らしを受け止めています。

民芸品や古道具が、暮らしの景色になる

川勝様邸を訪れて印象に残るのは、木の空間そのものだけではありません。

棚や壁際、土間まわりには、長く使われてきた古道具や民芸品、手仕事の気配を感じる器やしつらえが、さりげなく置かれています。どれも空間を飾るためだけのものではなく、日々の暮らしのなかで選ばれ、使われ、少しずつ集められてきたものです。

玄関正面の飾り棚には、柚木沙弥郎さんの作品が置かれていました。木の棚、敷瓦の土間、近くに並ぶ器や古道具。そのどれとも競い合うことなく、色だけがふと残ります。

川勝様ご夫妻は陶器もお好きで、益子をはじめとした産地を訪ねながら、暮らしのなかで使いたい器を少しずつ選んできたそうです。食卓に並ぶ器も、棚に置かれた器も、ただ集められたものではなく、それぞれに出会った場所や時間の記憶があります。

そうして選ばれた器や道具は、どれも強く主張することなく、空間のなかで静かな存在感を持っています。

新しい住宅では、古道具や民芸品が「古いもの」として少し浮いて見えてしまうこともあります。けれど川勝様邸では、無垢の木の床や梁、真壁の柱、敷瓦の土間といった素材の表情が、それらの品々を自然に受け止めています。

木目や節、焼杉や瓦のように、時間とともに深まっていく素材。使い込まれた木の道具や民芸品。益子などで選ばれた陶器。手仕事から生まれた版画や染色作品。異なる時代や土地から来たものが、一つの空間のなかで無理なくつながっているように感じられます。

暮らしのなかで集めてきたもの、受け継いできたもの、旅先で出会ったもの、心惹かれて選んだもの。そうした一つひとつが、ただ飾られるのではなく、日々の生活の景色になっていく。

川勝様邸は、住まいが完成したときにすべてが整うのではなく、これから暮らしの時間とともに、少しずつ深まっていく家なのだと思います。

木の見方が変わった

家づくりの過程で、川勝様ご夫妻にとって印象的だったことのひとつが、「木の見方が変わった」ことでした。

モデルハウスの宿泊体験では、木の香りが強く印象に残ったといいます。また、真壁と大壁の違いを知ることで、木の家の見方が整理されたそうです。

柱や梁が見える真壁の空間では、構造材そのものが室内の表情になります。だからこそ、どんな木を選び、どこに使うかが大切になります。

川勝様ご夫妻は、節の少ない美しい構造材や床材に驚くと同時に、製材や手刻みの現場で、その美しさが職人や大工の丁寧な仕事によって支えられていることを知りました。木目まで見極めながら、使う場所にふさわしい材を選び、刻んでいく。その過程を見たことで、家のなかに使われている木への愛着も、いっそう深まったといいます。

「坂元植林の家でしかできない家づくりだと感じました」

森を持ち、製材を行い、大工の手仕事とつなげていく。そうした一連の流れを見ていただいたからこそ、完成した家の木にも、より深い愛着が生まれているように感じます。

市街地から少し離れた場所で、地域に迎えられる

川勝様邸のある成田地区は、柴田町の市街地から少し離れた、田畑や里山の気配が身近な場所です。

一見すると不便に思われるかもしれません。けれど実際に暮らしてみると、「思っていたより便利」と話します。

駅までは車で10分ほど。そこから電車で仙台市内へ通勤することもできます。

そして何より印象的だったのは、地域の方々のあたたかさでした。回覧板と一緒に、たくさんの野菜を持ってきてくれることもあるそうです。

もちろん、その関係は川勝様ご夫妻が地域のなかで過ごす姿勢とも切り離せません。地区の寄り合いや草刈りなどにも自然に参加し、顔を合わせれば言葉を交わす。新しく住み始めた人が、地域の暮らしを自分たちのものとして引き受けていく。その積み重ねが、少しずつ安心できる関係につながっているように感じます。

田畑や里山の近くで、地域の人たちと関わりながら暮らす。
成田地区での暮らしには、家の中だけでは完結しない豊かさがあります。

軒先の木陰で、ひと休みする時間

住み始めてから、川勝様ご夫妻は家のなかのさまざまな場所でくつろいでいます。

吹き抜けにかかる梁を見上げる時間。
床にごろりと横になる時間。
窓の外に広がる景色を眺める時間。
軒先の木陰で、ひと休みする時間。

回遊動線も快適で、日々の家事や移動が自然につながります。

この家には、日々の過ごし方を受け止める余白があります。土間、庭、キッチン、リビング、軒下。それぞれの場所がゆるやかにつながり、その日の気分や季節に合わせて居場所を選べるような住まいです。

森から始まった家が、暮らしの場所になった

川勝様ご夫妻の家づくりは、長い時間をかけて進んでいきました。

さとのえを見て「建てたいのはこれだ」と感じたこと。
宿泊体験し、坂元の森を歩いたこと。
製材所や焼杉の現場を見学したこと。
里山や田畑に近い土地を探したこと。
伐採式、製材、手刻みを経て、家が形になっていったこと。

その一つひとつの体験が、今の暮らしにつながっています。

完成した住まいは、木の美しさを見せるためだけの家ではありません。
地域に根ざし、外とつながり、土間や軒下で季節を感じながら、日々の暮らしを受け止める家です。

窓の外には、畑と里山の気配があり、土間には、外から持ち帰ったものを一度置く余白が。棚には、旅先で出会った器や、長く使われてきた道具が並びます。

森から始まった家は、いま、川勝様ご夫妻が集めてきた時間を受け入れながら、少しずつその家らしい景色になっています。

書いた人

坂元植林の家 編集部

坂元植林の家 編集部

林業会社を母体とし、森林経営から木材加工、木造住宅の設計施工まで一貫して取り組む工務店として、森林・林業・木造建築・地域の暮らしに関する実務に基づいた情報を発信しています。