家族で根をはり、育てていく家

仙台市 鈴木さんファミリー(仮名)

五月晴れの5月末日、仙台市北部の住宅地に、家族四人で暮らす鈴木正樹さんと瑠美さん(仮名)のお宅を尋ねました。お子さんふたりが、リビングのテーブルや、土間スペースから庭へ行き来しながら楽しそうに遊ぶ様子を見ながら、ダイニングテーブルの席に着き、鈴木さんご夫妻にお話を伺いました。

テーブルには、庭で育てているというハーブで入れてくださった、オリジナルブレンドのお茶。開け放した窓から入る気持ち良い初夏の風が、まだ微かに残る杉の木の香りを、時々鼻先に運んでくれます。ハーブの香りと相まって、取材という仕事を忘れ、仙台という大都会にいることも忘れ、一瞬ふわっと気持ちよく脱力してしまいましたが、気持ちをお仕事モードに戻して、まずはお二人が「家を建てよう」とお考えになった経緯から尋ねました。

宮城の地に根をはろう

正樹さんは、神奈川県に生まれ、大学卒業後は埼玉県で自動車のエンジン部品メーカーに就職。その後も愛知県への出向や新潟県への転勤と続き、なかなか1カ所に居を構えるという状況ではなかったそうです。その間に、瑠美さんと結婚し、ふたり目のお子さんが生まれたというタイミングで、また大きな転機が訪れました。正樹さんご自身もオートバイレースの活動をしていたこともあって、モータースポーツに関わる仕事に興味があり、 ヨーロッパの会社に転職を決め、単身、海外へ。ヨーロッパを中心に北半球と南半球を行ったり来たりしながら1年を過ごしたそうです。1年の勤めを終えて正樹さんが帰国すると、今度は家族が一緒に暮らせるようにと仙台市内のものづくりの会社への転職を決めました。また、上のお子さんがあと1 年ほどで小学校に入るというタイミングでもあり、仙台に根を張るための家を持とうと、ふたりで話し合ったそうです。

根をはるための家探し。最初は、手取り早く建て売りでいいかなと思って建て売り住宅の見学をしてみたりもしたそうです。以前から三角屋根のデザインが特徴の住宅メーカーが気に入っていた瑠美さんは、ほぼその会社で建てるつもりで土地探しも始めていましたが、正樹さんから新しい提案がありました。それまでは、家探しはどちらかというと瑠美さんに任せていた正樹さんですが、「注文住宅の工務店のモデルハウスがあるから見に行こう」と瑠美さんを誘ったそうです。
「たまたまネットに流れてくるいろんな情報を見ているときに、宮城県内の自社の木を使って、大工さんが木の家を建てる工務店があると知ったんです」
それが、坂元植林の家でした。

子どもたちが、初めて飽きなかったモデルハウス

「当時、名取にあったモデルハウスに家族で行ってみたんです。中に入ったら、木の匂いが漂っていて、こんな家があるんだと二人でもうびっくりして・・・。1週間もしないうちにモデルハウスの宿泊体験に申し込んでみたんです」と、正樹さん。
瑠美さんが「ちょうど、名取の花火大会のときだったよね。2018年の7月かな」と、話を続けてくれました。

「最初は、夫に言われてモデルハウスに行く直前までは、何をわざわざ名取まで見に行くんだろうと、気乗りがしなかったんです。私は最初に気に入っていた住宅メーカーに気持ちがだいぶ傾いていたので、今さら他のところを見てもな〜という気持ちで。だけど、行ってみたら、モデルハウスなのにスリッパが置いていなくて、まず木の質感を味わっていただくためにスリッパを置いていませんという説明があったんです。こういうモデルハウスもあるんだという新鮮な驚きがあって・・・。それから、内部では大黒柱とか土間とか、うちも参考にさせてもらったところがいっぱいあるんですが、とっても気に入ってしまいました」それまでのモデルハウス見学では、すぐに飽きてしまっていた子どもたちが、上から下まで階段を駆け上がったりハンモックで遊んだり、とても楽しそうだったことも、坂元植林の家に大きく気持ちが動いた要因だったそうです。「私たちだけでなく、子どもたちも何か感じるものがあったのでしょうね。今もそうなんですけど、宿泊体験させていただいた時も、大黒柱に背中をくっつけて本を読んだり、ソファに座るよりも床に座ることが今も多かったり、木の家の心地よさを、子どもなりに、十分感じているようです」

地域のもので、地域の人の手仕事で

瑠美さんが、他の住宅メーカーから坂元植林の家へ気持ちが動いた理由のひとつに、他社のモデルハウスと実際に住むために建てられる家の間にある、微妙なギャップがあるそうです。
「モデルハウス に見学に行って、いいなと思っても、同じメーカーの完成住宅見学会やお宅訪問などに行くと、何かちょっと違うなあという違和感を感じていたんです。モデルハウスって大きいし、見栄えもよく作られているけれど、それが、普通のサイズの住宅になると、うーんと残念に見えるところも目について・・・。洗面台やお風呂、それから内装など普通の作りつけのもので、それまで住んでいた社宅やアパートとあまり変わらないというか・・・、お金を出して住むんだったら、もっといいところがいいよねと。最初は二人とも働いて帰ってきて寝るだけだから、内装なんてどうでもいいかなという気持ちもあったんですけど。やっぱりお金をかけてつくる家だから、しっかり考えようと気持ちが変わりましたね」

最初は、家選びは瑠美さんまかせだった正樹さんも、瑠美さんによると「だんだん私より、こだわりが強くなってきた」そうです。正樹さん曰く「もともと、地産地消とか、地元の、技術を持った職人さんのものづくりとかに惹かれる気持ちが強いんですよ」。
「坂元植林の家で、そういう家づくりをされているということがわかったので、いろいろ教えてくださる営業の方とお話しするのも楽しくなって、話をして対応していただいているうちに、坂元さんの製材所に見学に行ったり、坂元の森の森林体験ツアーに、春と秋に行ったり・・・。皆さん、プロなんですよね。森をつくる、木をつくる人がいて、製材する人がいて、建てる人がいて。普通の住宅メーカーでは、そういうプロの集まりの会社ってあまりないですよね。やっぱりそういうところは強く惹かれましたね」

技術系のものづくりの領域で仕事をしている正樹さんと、坂元植林の家のものづくりの理念は、響き合うところがあったのでしょう。
瑠美さんも、どうせ宮城に住み続けるのなら、とことん宮城のものづくりにこだわった会社にお願いしたいと気持ちを固め、坂元植林の家に設計・施工をお願いし、土地探しを始めることになりましたが、条件にあう土地に出会えるまで、時間がかかってしまったそうです。2019年の春、ようやく見つかった土地は、公園が向かいにある少し高台になった住宅地の一角。それから家のプラン作りが始まりました。

注文住宅の設計は、どのように進むのでしょうか。
「初めに私たちから、ざっくりとした希望を伝えました。キッチンは名取のモデルハウスのようにしたいとか、畳の部屋は欲しいとか。それで、最初のプランが上がってきて、それに対して、ここはこうしたい、こんな風に変更したいとお伝えすると、次の打ち合わせにはちゃんと形になって出てきて。そんなやりとりを何回か繰り返させていただいて最終にプランが形になっていきました」と、瑠美さん。
2019年の1月には、槻木駅西のモデルハウス「まちのえ」も完成していたので、そこも見学しながら参考にされたそうです。

キッチンで過ごす時間

プランづくりのやりとりの過程で、印象的だったことを、瑠美さんに聞いてみました。「女性の設計士さんもいらっしゃって、女性目線・母親目線でプランづくりのアドバイスをいただきました。キッチンのそばにお母さんのためのスペースもあったほうがいいですよと、料理をしながら、子どもの連絡帳を書いたりプリントに目を通したりするのに、机としても使えるスペースを作ってもらったんですが、毎日、大活躍です」
自分の身長に合わせるべきか、お手伝いをしてくれる子どものために低めがいいのか・・・、キッチンシンクの高さを悩んでいた瑠美さんには、サカモトのスタッフの女性が坂元植林の家で建てた自宅のキッチンに立たせてくれて、高めの90cmの使い勝手を確かめさせてくれました。それで90cmの高さにしようと決めることができたそうです。
「プランづくりって、営業さんと設計の方と私たちで考えていくものだと思っていたんですが、早い段階からそんな風に・・・、それに家のことだけでなく庭のことも、いろんな人が暖かく関わってくださって、気にかけていただいて・・・というか、いろんな人を巻き込んで(笑)進めていくことができたのが、素晴らしいなあと思っています」
他にも、瑠美さんが満足していることが2つあります。名取のモデルハウスを参考に、食器棚や収納棚を置かなくてもいいように、キッチンやパントリーの収納を作り付けで作ってもらったこと。「何より、アパート暮らしではゴチャゴチャ積んでいたものが、すっきりと片付くことが、とても嬉しいです」
もう一つは、天窓もお気に入りだそうです。朝、家を出るときに、天気がいい日には「あ、電気をつけっぱなし?」と勘違いするほど、とても明るいそうです。統一感があるすっきりとした空間、自然のめぐみのお日様の光を取り込む空間。キッチンで過ごす時間の幸福度が、より高まりそうですね。

キッチンのことは、瑠美さんにまかせながら、正樹さんは、リビングでテレビ周りをいかにすっきり見せるかにこだわったと言います。
「テレビを壁掛けにしたいと思ったんです。その希望を伝えながら、僕もどんな方法があるかを調べて。DVDプレイヤーが、横の棚に乗っているんですが、テレビのディスプレイまでの配線を壁に埋め込んでもらいました。LANも全部、壁の中に入れてもらっているんです」
すっきりとした壁の表情で、キッチンからダイニング、リビングと、ひと続きの空間が、さらに伸びやかさをましているように感じます。

子どもたちの秘密基地

「設計していく過程で、ロフトをご提案いただいたことも、本当に良かったですね」と、瑠美さんが子ども部屋のことを話してくれました。2階のスペースをどう使うかについては、親の寝室と、子ども二人のスペース配分をどうするか、日当たりをどう考えるか、クローゼットをどうするか、いろんな要素があって、なかなか悩ましいところだったそうです。最初に提案された間取りは、二つの子ども部屋と親の寝室と、それぞれ六畳くらいで、クローゼットのスペースが十分ではなく、クローゼットを二畳にしてもらうプランでは、子ども部屋のひとつが北西の角になって日当たりが悪くなる。その後のプランで「ロフトはいかがですか?」と、それぞれ四畳半のスペースに、木の梯子を添えたロフトを設置することを提案してもらったそうです。
「それが、大正解でしたね。子どもたちも大喜びです。自分たちで考えて梯子と梯子の間にバスタオルを2枚つけてハンモックなんて言って乗って遊んだり。たまに落ちて頭をぶつけちゃったりね(笑)。でも色々と工夫して遊んでいます。ロフトもゆくゆくは布団を敷いて寝るスペースと考えているのですが、まだ小さくて一人では寝ないので、今はおもちゃを置いて秘密基地状態。ロフトは自分たちのものという感覚があるみたいで、すごく気に入っていますよ」

秋から冬の住み心地

ひと続きの広い空間、寒い季節の住み心地は、どうなのでしょうか。
瑠美さんは「アパート暮らしの時と、気温的には同じような日でも、今の家の方が、家の中の空気というか、肌で感じる温度が暖かいように思います」と言います。
鈴木家は、1階と2階のそれぞれにエアコンを、1階にはペレットストーブを設置しました。正樹さんは「予想以上に、初めての冬も暖かく過ごせました。ペレットストーブは、天板に置いて焼き芋もできるし、子どもたちも僕もペレットストーブを使うのが楽しくてしょうがないです、焼き芋、美味しいんですよ、これが」と笑います。焼き芋だけではなく、お湯を沸かすのにも活用しています。とは言え、実は、ペレットストーブの出番は、それほど多くないそうです。

「エアコンだけでもけっこう暖かいんです。平日は、二人とも仕事から帰ってきて、余程冷え込みが厳しい日や、時間に余裕がある時だけペレットストーブをつけます。エアコンの設定温度もそんなに高くなくて、23℃くらいなんですが、それで十分なんですよね。2階の寝室もエアコンは設置したんですが、ほとんど使っていないです。コンセントも最近は抜いています(笑)。下で暖まった空気が吹き抜けで上がってくるから、寝るときは全然寒くないですよ」と、正樹さん。
北と西東の面のガラス窓などの開口部を減らして、1階も2階も南側に窓を大きく取ったここと。開口部も障子や断熱ブラインドを入れていること。南側の掃き出し窓に作ったコンクリートの土間が、晴れた日中はしっかりと蓄熱してくれていること。そんな設計上の工夫が、寒い季節の心地よい空気をつくり出しています。

庭とつながる家、育てていく家

リビングと庭をつなぐ土間は、室内から庭、庭から室内へと、家族の日々の暮らしの動きを軽やかに生み出しています。「庭においているプランターの植物も、冬はみんな土間に避難させて、足の踏み場もなくなるんですけどね」と笑顔の瑠美さん。
庭には、野菜や果物の生ゴミから退避を作るコンポストも設置されています。坂元植林の家では、コンピストを作るワークショップを開催していて、そこに参加して興味を持たれたそうです。正樹さんは「住み始めてしばらくしてから、 やっぱりあったほうがいいね、ということで、サカモトさんにキットを作ってもらって使い方のレクチャーを受けて、自分たちで組み立てました。ちょっと自分で改良したりしながら使っています。箱があって蓋があって、シンプルな作りだし、庭に設置していても違和感がない。それで、温度が上がれば分解も進んで、大活躍ですよ」と満足そうです。正樹さんは「ちょっと改良」と控えめに話されましたが、蓋と本体の接続部分に小さなダンパーが取り付けてあり、蓋を開いたまま自動で固定できる仕組みになっているのです。瑠美さんは、作業も楽だし、生ゴミを燃えるゴミの回収日まで待たずに処理できるので、とても助かっていると言います。
できた堆肥は、お子さんが保育園からもらってきたトマトの苗を植えるときや、ハーブを植える時に混ぜたりして活用しているそうです。コンポストでは、カボチャの種が発芽したそうで、その中から1つだけ残して地植えにしてありました。収穫も楽しみですね。

庭は、ぐるりとウッドフェンスで囲まれています。道路側は、新築時に造園を担当された職人さんの造作。他の部分は、予算の関係で、元々敷地についていたアルミフェンスのままだったそうです。心地よい木の家で暮らすうちに、手先が器用で創意工夫の精神に富む正樹さんに、スィッチが入りました。木材を買い、道路側のフェンスと同じようになるように真似をしながら自作のウッドフェンスを完成させました。余った木材で、洗面所のオープンな棚にドライヤーなどをすっきり収納する引き出しも作ったそうです。

暮らしながら、家族で手を加えて、家も庭も育てていく。家族と一緒に育っていく。木の家には、そういう「幸せな余地」があります。

家で過ごすことが、最高の贅沢

取材の最後に週末の過ごし方を伺ってみました。仙台市の郊外で、自然環境豊かな場所にも市街地にもアクセスは良い環境。お出かけのバリエーションも色々あるのでは?と、話を向けたのですが、正樹さんと瑠美さんからは、声を揃えて「週末は、家族みんなで、庭の草をむしっています!」という答えがかえってきました。
「休みの日は、ほとんど家で過ごしていますね。僕がウッドフェンスとかを作っていると、子どもたちも手伝うって手を出したがる。邪魔しているだけなんですけど(笑)。ハーブの苗を買いに行くと、私はこれを買うと言って自分で選んで自分で植えたりしてますね」
「植えるところまではやるんですけど、水やりが続かないですね(笑)」
ご夫妻が、庭仕事をしたり、造作を作ったりしているとき、子どもたちも庭に出て、お手伝いをしたり、縄跳びをしたり・・・。お天気がいい日は、雨水をためて庭の水やりに使うタンクの水を使って、思う存分、水遊びをしたり・・・。そんな「豊かな休日」の風景が繰り広げられています。

「アパートで暮らしていた頃は、土日になると子どもたちはアパートの前の小さなスペースで自転車を乗り回して、大人はその様子を見ているだけだったりで、結局、車でどこかへ出かけようか、って。家にいても楽しくなかったんですよね」と、瑠美さん。
「今は、コロナの感染拡大で行動も制限されたり自粛したりという状況だけど、そうじゃなくても、多分、この家だから家にいることが楽しくて、休日も家にいるんだろうなって思います」と、正樹さん。

家で過ごす時間が、いちばん幸せ。いちばん楽しい。そんなことを笑顔で語り合う鈴木ファミリーには、お子さんの成長に伴って家を育てながら暮らしをつくっていく楽しみの可能性が、まだまだこれからも無限に広がっています。

2021年5月取材  取材・文 簑田理香(もりのわ編集部)